レトロゲームとマンガとももクロと

レトロゲームとマンガとももクロと

レトロゲームを題材に短編小説を書いてみた ガッツマンの日常:第一話 ゲームショップ「オーロラ」

 

 

ガッツマンの日常:第一話 ゲームショップ「オーロラ」と迷えるミドリ

第一章:迷い込んだ子羊

商店街の片隅に、どこか幻想的な光を放つゲームショップ「オーロラ」があった。社長は、白髪交じりの「おやっさん」。そして、店員は、夢追勝男(ゆめおい かつお)、通称ガッツマン。頭は悪いが根性と発想力は天下一品、そして何より心が優しい男だ。彼の店は、最新のゲームを求める若者よりも、どこか懐かしさを求める常連客がふらりと立ち寄る、心のオアシスのような場所だった。

ある日の午後、店に似つかわしくない一人の女子高生が迷い込んできた。肩まで伸びた髪は乱れ、制服はくたびれている。目は虚ろで、まるで生きる気力を失った子猫のようだった。

「…あの、すみません…」

蚊の鳴くような声で、少女はつぶやいた。おやっさんはカウンターから顔を上げ、優しく声をかける。

「おや、いらっしゃい。何かお探しかな?」

少女はふるふると首を横に振る。

「いえ…ただ…休めるところを探してて…」

ガッツマンは、その様子をじっと見ていた。彼の根っからの優しさが、すぐに少女のSOSを察知したのだ。彼はすかさず店の奥から、おやっさんさえ忘れていたような古いパイプ椅子を引っ張り出してきた。

「お嬢さん! よかったら、ここで休んでいってください! この椅子、僕の根性で磨き上げたんで、座り心地は最高ですよ!」

少女は、ガッツマンのあまりにも真っすぐな笑顔に、少しだけ警戒心を解いたようだった。そっと椅子に腰を下ろすと、まるで何日もまともに休んでいなかったかのように、すぐにうつむいてしまった。

「おやっさん、あの子、なんか元気がないっすね。まさか、ゲームのやりすぎで、現実世界がわかんなくなっちゃったとか?」

ガッツマンの発想は、いつだって斜め上を行く。おやっさんは苦笑しながら、彼の丸坊主頭をポカリと叩いた。

「バカ言え。あの子は、きっと何か悩んでるんだ。ガッツマン、お前も座っててやれ。」

ガッツマンは素直に隣に座り、少女の顔を覗き込む。

「お嬢さん! 僕、ガッツマンって言います! 何か困ってることあったら、何でも言ってくださいね! 僕の発想力根性で、どんな問題も解決して見せますから!」

少女は、ガッツマンの勢いに押され、はっと顔を上げた。彼女の目に、一瞬だけ光が宿ったように見えた。

「…私…学校に行きたくなくて…」

少女の口から出た言葉は、重く、悲しい響きを持っていた。いじめ、勉強、人間関係、あるいはもっと複雑な事情があるのかもしれない。おやっさんは静かに頷き、ガッツマンは真剣な顔で少女の言葉を受け止めた。

「学校、行きたくないんすか…、よし、分かりました!」

 

第二章:ファミコンと迷宮の入り口

ガッツマンは突然立ち上がり、店の奥へと走り出した。おやっさんと少女は、何が始まるのかと呆気に取られている。

「まさか、また変なこと始めるんじゃないだろうな…」

おやっさんの予感は的中する。ガッツマンが戻ってきた時、その手には、埃をかぶった大きな段ボール箱が抱えられていた。中には、ファミコンのカセットがぎっしり詰まっている。

「お嬢さん! これで、お嬢さんの問題、きっと解決します!」

ガッツマンは、箱を少女の前にドンと置いた。ミドリは恐る恐る中を覗き込む。そこには、赤や黄色、水色といったカラフルなファミコンカセットが、まるで宝石のように輝いていた。マリオ、ドラクエ、ゼルダの伝説…様々なタイトルの横で、ひときわ異彩を放つ、暗い色合いのカセットがあった。彼女の指が、自然とそれを掴んだ。

それは、ファミコン版『ウィザードリィ』のカセットだった。

「これは…?」

ミドリが戸惑いの声を上げた。ガッツマンは、目を輝かせながら説明する。

「これはですね、人生の攻略本ですよ! 『ウィザードリィ』は、冒険者となって、迷宮を探索して、敵と戦って、仲間と協力して、少しずつ強くなっていくんす! 昔、引きこもりの治療にも使われたって話もあるくらい、このゲームには人生を乗り越えるヒントが詰まってるんすよ!」

ガッツマンは、ファミコン本体にカセットを差し込み、テレビに接続する。ブラウン管に映し出されたシンプルな迷宮の画面に、ミドリの目が釘付けになった。初めて触れるゲームの世界に、彼女は戸惑いながらもコントローラーを握る。

「…でも、私…ゲームとか、あんまりやったことなくて…」

「大丈夫です! 僕がガッツマン流の必勝法を教えてあげます! 失敗したって、それが次の成功につながるんです! それこそが、最高の体験なんですから!」

ガッツマンの熱意に、少女の表情が少しずつ和らいでいく。おやっさんは、そんな二人を静かに見守っていた。ガッツマンがいつも言っていた「いつか新聞に載る男」というのは、もしかしたら、人を救うことで載るのかもしれないと、おやっさんは思った。

このゲームショップに迷い込んだ少女と、頭は悪いが心優しいガッツマン、そして彼を見守るおやっさん。彼らの出会いが、少女の心を少しずつ解き放ち、そしてガッツマンにとっても、また新たな「最高の体験」となる物語が、ここから始まろうとしていた。

 

第三章:小さな勝利の積み重ね

ミドリは毎日、放課後になると「オーロラ」にやってくるようになった。最初はうつむきがちだった彼女の顔には、少しずつ笑顔が戻り、ウィザードリィの迷宮で新しい階層に到達するたびに小さな「やった!」という声が漏れるようになった。

ある日、ミドリは難しいフロアで途方に暮れていた。何度挑戦しても、強力なモンスターに阻まれ、全滅してしまう。

「もう…ダメ…」

ミドリの目に、再び絶望の色が浮かんだ。その時、ガッツマンが大きく息を吸い込んだ。

「ミドリちゃん! 諦めるのはノーグッドっす! 思い出してください、僕が言ったガッツマン流の必勝法を!」

「必勝法…?」

「そう! 『正面突破でダメなら、裏口から攻める!』っす! いや、違うな…『壁にぶつかったら、別の道を探せ!』…いやいや、『一見無駄に見える行動こそ、勝利への近道だ!』っす!」

ガッツマンの支離滅裂なアドバイスに、ミドリは思わず吹き出した。彼の言葉は滅茶苦茶でも、その根底にある「諦めない心」は伝わってくる。ミドリは、パーティー編成を見直し、今まで使わなかった魔法を試したり、あえて敵を避けて進むルートを探したりと、様々な戦略を試した。そして、ついにそのフロアを突破したのだ。

「やった! ガッツマンさん、私、突破したよ!」

ミドリの声には、確かな喜びと自信が宿っていた。その日、ミドリはついにその迷宮の深層へと足を踏み入れた。

 

第四章:現実世界への一歩、そして新たな始まり

ゲームを通して自信をつけ始めたミドリは、少しずつガッツマンやおやっさんに自分のことを話すようになった。学校でのいじめ、友達との関係、そして将来への不安。二人はただ静かに耳を傾け、時にはガッツマンが奇妙だが温かいアドバイスを送った。

「ミドリちゃん! ゲームの世界でボスを倒したみたいに、現実のボスも倒せるっす! 一人じゃ倒せなくても、仲間がいれば大丈夫っすから!」

怖い気持ちはあったが、ウィザードリィで培った粘り強さと、ガッツマンともう一人のおやっさんという「仲間」がいるという安心感が、彼女の背中を押した。

彼女の顔には、まだ不安の色はあったが、以前のような虚ろな目はなく、強い意志の光が宿っていた。

数週間後、再びミドリが「オーロラ」にやってきた。その顔は以前とは見違えるほど明るく、友達と笑いながら店に入ってきたのだ。

彼女は、いじめの問題に真正面から立ち向かい、少しずつではあるが、自分の居場所を見つけ始めていた。

ガッツマンは、目を潤ませながら、これ以上ないほどの満面の笑みを浮かべた。彼の頭の中では、今回の出来事が間違いなく「最高の体験」として刻み込まれていた。

「よかったっすね、ミドリちゃん! それこそが真の勝利っす! いや、これは新聞の一面を飾るレベルのハッピーエンドっす!」

その時、ミドリが少し照れたように口を開いた。

「私、ここでアルバイトしたいなって思ってるんですけど…ダメですかねぇ?」

おやっさんは、にこやかに頷いた。

「おお、それは嬉しいね! ミドリちゃんなら大歓迎だよ!」

そして、おやっさんはガッツマンの方をちらりと見て、悪戯っぽい笑顔を浮かべた。

「よし、じゃあ、ミドリちゃんが来てくれるなら、ガッツマンはもういらないな。明日からクビだ、ガッツマン!」

「ええええええっ!? おやっさん、そんな! 僕の根性発想力は、この店には不可欠な存在っすよ!?」

ガッツマンは慌てて抗議したが、おやっさんとミドリ、そしてミドリの友達は、楽しそうに笑い声を上げた。ガッツマンの「最高の体験」は、これからも続いていく。そして、ゲームショップ「オーロラ」は、今日もまた、「迷える子羊」を温かく迎え入れることだろう。

 

 

ガッツマンの日常:第二話 愛のキューピッド大作戦!

 

第一章:愛のキューピッド大作戦!

ゲームショップ「オーロラ」のいつもの午後。ミドリが楽しそうに店の掃除をしている横で、ガッツマンはいつになく腕を組み、唸っていた。彼女は今ではアルバイトとして店にすっかり馴染み、その顔には以前のような陰りは微塵もない。

その時、店先に懐かしい顔が現れた。高校時代の同級生、タカシだ。

「おっ! タカシじゃないっすか! 久しぶりっすね! この前は結婚式、呼んでくれてありがとうっす! ユキさん、本当に綺麗だったたっす! それで、どうっすか新婚生活は? 」

ガッツマンの満面の笑顔とは裏腹に、タカシの表情はひどく落ち込んでいた。その顔からは幸せオーラなど微塵も感じられない。

「ガッツマン…聞いてくれよ…今本当に幸せなんだ。なのに、食卓だけがちょっと…スリリングでさ…」

タカシの口から出たのは、新妻の料理が壊滅的だという悲痛な愚痴だった。焦げ付いた朝食、味のない夕食、そしてたまに現れる得体の知れない物体。「愛は冷めないが、食卓は冷え切っている…いや、焦げ付いている!」と頭を抱えるタカシに、ガッツマンは深く同情した。

カウンターの奥から、おやっさんが静かに二人のやり取りを見守っていた。彼の口元には、どこか昔を懐かしむような、それでいて苦笑いのような複雑な表情が浮かんでいる。

「そりゃ大変っすね、タカシ! 愛があれば何でも乗り越えられるって言いますけど、お腹が空いちゃあ、根性も萎えちまいますからね!」

ガッツマンは、どうにかしてタカシを助けたいと頭を捻った。タカシの奥さんであるユキさんの人柄をよく知っているガッツマンは、彼女が繊細な性格で、直接「料理が下手だ」などと言えば深く傷ついてしまうだろうと考えていた。何か、自然に、そして楽しく料理の腕を上げてもらう方法はないものか…。

しばらく考え込んだガッツマンは、突然「閃いたっす!」と叫び、店の床をバンバンと叩いた。おやっさんが「また始まったか」とばかりに苦笑する中、ガッツマンの目がキラリと輝いた。その勢いに、隣でホコリを拭いていたミドリも思わず手を止めた。

「よし、決まったっす! 『カモフラージュ福袋大作戦』っす!」

ガッツマンが考え出したのは、ユキさんが普段好きそうなジャンルのゲームの中に、さりげなく料理系のゲームを紛れ込ませた福袋をプレゼントするという作戦だった。これなら、ユキさんが傷つくことなく、楽しく料理を学ぶことができるはずだ。

「ミドリちゃんも手伝ってくれっす! ユキさんの好きなゲームのジャンルは…RPGと、あと可愛いキャラの出てくるパズルゲームとかっすかね?」

ガッツマンの指示に、ミドリはテキパキと棚からゲームソフトを選び始めた。彼女自身、この店でゲームの面白さを知り、今ではすっかり詳しくなっていた。

「はい、ガッツマンさん! このRPGと、あとこのパズルゲームがいいと思います。人気もありますし、奥さんもきっと喜ぶと思います!」

ミドリが選んだゲームを確認し、満足そうに頷いたガッツマンは、いよいよ本命のゲームを取り出した。

「そして、その中にこれを紛れ込ませるっす!」

ガッツマンが自信満々に取り出したのは、『しゃべるDSお料理ナビ・まるごと帝国ホテル』のカセットだった。

「これっす! 『しゃべるDSお料理ナビ・まるごと帝国ホテル』! これはもう、料理のプロがマンツーマンで教えてくれるようなもんっす! 音声と写真で分かりやすく、201種類の料理が学べる、まさに『料理の攻略本』っす! これさえあれば、どんな料理も怖くないっすよ!」

ガッツマンは、まるで自分が料理人になったかのように身振り手振りで説明した。食材の選び方から専門用語まで学べる「お料理事典」の充実ぶりも熱弁し、これでユキさんは料理の達人になると確信しているようだった。

「そして、念のため、この2つもこっそり忍ばせておくっす!」

続けてガッツマンが取り出したのは、『クッキングママ』と『俺の料理』のパッケージだった。

「こっちの『クッキングママ』は、切る、炒める、揚げる! 基本のテクニックをミニゲーム感覚で学べる最高の教材っす! 子供向けって侮っちゃいけないっすよ、これがまた結構なガチ難易度で、夢中になること間違いなしっす! そして『俺の料理』! 料理の段取りと効率を学ぶには最高っす! アナログコントローラーを使いこなせば、まさに体が覚えるってやつっすよ!」

ガッツマンの熱弁を聞きながら、ミドリは感心したように頷いた。

「すごいですね、ガッツマンさん! 直接言うんじゃなくて、ゲームで楽しく学んでもらうなんて、ガッツマンさんらしい優しい作戦ですね!」

ミドリの言葉に、ガッツマンは得意げに胸を張った。

おやっさんは、腕を組みながらその様子を見ていた。「ゲームで料理をな…昔じゃ考えられん時代になったもんだ」と唸ったが、その表情はどこか満足げだった。ガッツマンの奇想天外な発想が、いつも誰かを笑顔にするのを知っているからだ。

「どうっすか、タカシ! ユキさんが好きそうなゲームの中に、これらを自然に忍ばせておくっす! これぞ、僕の発想力と根性で編み出した『愛のキューピッド大作戦』っす!」

タカシは半信半疑ながらも、ガッツマンとミドリの熱意に押され、福袋を抱えて店を後にした。

 

第二章:福袋の秘密、そして愛の食卓

タカシは、ガッツマンから託された福袋を抱え、自宅へと向かった。

「ただいまー」

玄関を開けると、妻のユキが笑顔で出迎えた。

「あら、おかえりなさい! 今日は随分荷物が多いわね?」

「ああ、ちょっと『オーロラ』に寄ってさ。ガッツマンが『これは絶対に損しない福袋っす!』って言うもんだから、つい買っちまったんだ!」

タカシは、少し照れながら福袋をユキに差し出した。ユキの顔がパッと明るくなる。

「へえ、福袋! 何が入ってるんだろう? ドキドキするわね!」

ユキは嬉しそうに福袋を受け取ると、リビングのテーブルに広げた。一つ、また一つと福袋からゲームのパッケージを取り出していく。

「わぁ、これ欲しかったRPGだ! すごい、こんなのが入ってるなんてラッキー! あ、こっちも、可愛いパズルゲームじゃない! 」

タカシは、ユキが喜ぶ姿にホッと胸を撫で下ろした。ユキは次々とゲームを確認し、その度に感嘆の声を上げた。そして、福袋の底から、最後に残っていた見慣れないパッケージを手に取った。

「あら? これは…『しゃべるDSお料理ナビ』? あと、『クッキングママ』に、『俺の料理』?」

ユキは首を傾げながら、それらのゲームを眺めた。タカシは一瞬、焦った。だが、ユキの表情はあやしむというより、むしろ興味津々といった様子だった。

「へぇ~、こんなゲームもあるんだ。私、料理はちょっと苦手だから、こういうの、面白いかも!」

意外な反応に、タカシは内心でガッツポーズをした。完璧なカモフラージュだ。

「あ、ああ、そうか! 試しにやってみたら、意外と楽しいかもな!」

ユキはさっそくDSを取り出し、『しゃべるDSお料理ナビ』を起動した。画面から流れる丁寧な音声ガイドに、ユキの目は釘付けになった。その日から、ユキは空き時間を見つけては、料理ゲームに熱中するようになった。

特に『クッキングママ』では、画面の指示に合わせて包丁を動かすミニゲームに夢中になった。最初は材料を切り損ねたり、焦がしたりと失敗ばかりだったが、何度も繰り返すうちに、指先の感覚が研ぎ澄まされていく。ユキはゲームクリアの達成感と共に、実際の包丁さばきや火加減のコツを無意識のうちに学んでいった。

そして、『俺の料理』では、複数の料理を同時進行で作る段取りの難しさに挑んだ。皿洗い、材料を切る、炒める、…と、次々に発生するタスクを効率よくこなすには、瞬時の判断力と手際の良さが求められる。最初はパニック状態だったが、何度も失敗を繰り返すうちに、どの作業を優先すべきか、どうすればスムーズに料理が進むのか、その「段取り力」が飛躍的に向上していった。

最初はぎこちなかったコントローラーさばきも、次第にスムーズになり、ゲームの中で様々な料理を作り上げていく。そして、ゲームで得た知識を、実際の料理にも応用し始めたのだ。

 

第三章:愛の食卓、そしてガッツマンの夢

数ヶ月後、再びタカシが「オーロラ」に顔を出した。その顔は以前のような疲れきったものではなく、満面の笑みを浮かべている。

「ガッツマン! 本当にありがとう! おかげさまで、うちの食卓が劇的に変わったんだ!」

「最近じゃあ、俺が仕事から帰ると、『今日の卵焼きは『クッキングママ』で特訓した成果だよ!』とか言って、得意げに教えてくれるんだ! そしてちゃんと上手いんだ!」

タカシはガッツマンの丸坊主頭を、感謝を込めて軽く叩いた。ガッツマンは、目を潤ませながら、これ以上ないほどの満面の笑みを浮かべた。今回の一件も、彼の中の「最高の体験」として深く刻み込まれたことだろう。

「いや〜、よかったっすね、タカシ! それこそが真の勝利っす! いや、これは新聞の一面を飾るレベルのハッピーエンドっす!」

ガッツマンは、人の幸せを自分のことのように喜んでいた。ミドリも、そんなガッツマンとタカシの様子を見て、温かい気持ちになった。

おやっさんも、二人の様子を嬉しそうに眺めていた。「世の中、ゲームで救われることもあるからな」と、深く頷く。彼の店が、ただゲームを売るだけでなく、人々の心に寄り添う場所であることを、改めて実感しているようだった。

そして、ふとガッツマンは遠い目をして呟いた。

「僕もいつか、こんな素敵な奥さんが欲しいっすねぇ…」

ガッツマンの「最高の体験」は、今日もまた、誰かの笑顔のために続いていく。ゲームショップ「オーロラ」そこは沢山の人に光を届ける、最高の空間なのだ…。

 

 

ガッツマンの日常 第三話:ガッツマンと迷子のピカチュウ

 

第一章:塾帰りの少女

ゲームショップ「オーロラ」のいつもの午後。ガッツマンは新入荷のレトロゲームを棚に並べながら、「うーん、このグラフィックの荒さがまた、たまらないっすね!」と独り興奮していた。ミドリもすっかり店の仕事に慣れ、常連客との会話も弾んでいる。

その日も、夕方になりかけた頃、店のドアベルがチリンと鳴った。入ってきたのは、まだあどけない顔立ちの小学五年生くらいの女の子だ。真新しい制服のようにぴしっとした服装は、この古びた商店街では少し浮いて見える。彼女の視線は、店内のゲームソフトのパッケージをチラリと見ただけで、すぐにカウンターの奥へと向かった。

「あの…」

蚊の鳴くような声で、彼女は尋ねた。

「…塾って、どこですか…?」

ガッツマンは目を丸くした。オーロラはゲームショップであって、塾ではない。おやっさんは苦笑しながら、優しく答える。

「おや、いらっしゃい。塾は、この道をまっすぐ行った交差点の角だね」

少女は「あ、ありがとうございます…」と俯き、そそくさと店を出ていった。その背中には、どこか寂しさが漂っているように見えた。

数日後、再び同じ少女が「オーロラ」に顔を出す。やはり店に足を踏み入れることなく、ちらりと店内を覗き込み、すぐにまた「塾に行かなきゃ」と呟いて去っていく。その様子を、ガッツマンとミドリは心配そうに見守っていた。

「あの子、なんだか元気がないっすね。いつも塾に急いでるみたいだけど、楽しそうじゃないっす」

ガッツマンの言葉に、ミドリも眉を下げて頷いた。

「うん…なんだか、見てて胸が苦しくなるよ。私にも、あんな頃があったから…」

ミドリは、かつて自分がクラスに馴染めず、一人で過ごしていた頃を思い出していた。

「そうだな。この商店街には最近引っ越してきた家庭が多いから、馴染むのに苦労してるのかもしれないな」

おやっさんの言葉に、ガッツマンは腕を組み、真剣な顔で考え込んだ。「友達と馴染めない…」その言葉が、かつてのミドリの姿と重なった。

 

第二章:ピカチュウとの出会い

その週末、ついに少女は店の中へと足を踏み入れた。彼女の目は、やはりどこか虚ろだ。ガッツマンは、チャンスとばかりに駆け寄る。

「お嬢さん! いらっしゃいっす! 今日は何かお探しっすか?」

少女は驚いたように顔を上げた。

「あ、あの…いえ、別に…」

言葉を濁す少女に、ガッツマンはたたみかける。

「もしかして、学校で困ってることとかないっすか? 僕、ガッツマンって言います! 何かあったら、僕の発想力と根性で、どんな問題も解決してみせますから!」

少女は、ガッツマンの勢いに少し戸惑いつつも、観念したように小さな声で話し始めた。

「私…ミカっていいます…最近この街に引っ越してきて…クラスに、うまく馴染めなくて…」

ミカは言葉を選びながら、クラスで話す友達がいないこと、休み時間が苦痛なこと、そして親が「いい学校に入ってほしいから」と塾に通わせていることなどをぽつりぽつりと話す。特に、絵を描くのが好きだという話をするとき、彼女の目がほんの一瞬だけ輝いたように見えた。

ガッツマンは、その話を聞いてピンと来た。

「よし、分かりましたっす!」

ガッツマンは突然立ち上がり、ミドリが目を丸くする中、店の奥へと走り出した。すぐに戻ってきた彼の両手には、『ポケモンアートアカデミー』のパッケージが抱えられていた。

「ミカちゃん! これで、ミカちゃんの問題、きっと解決します!」

ガッツマンは自信満々に、パッケージをミカの前に置いた。

「これはですね、ミカちゃんの人生を変えるゲームになるかもしれない、ぶっちぎりでナンバーワンのゲームっす! まずはちょっと、お試しで遊んでみてくださいっす!」

ミカは「ポケモン…?」と呟きながら、パッケージに描かれたピカチュウのイラストをじっと見つめた。ガッツマンは店の試遊機である3DS本体にカセットを差し込み、電源を入れた。映し出されたカラフルな画面に、ミカの目が釘付けになる。

「これはですね、お絵かきソフトなんす! 遊べば遊ぶほど、イラストが上手くなる最高の教材っすから! まずは輪郭を描きましょう、次に色を塗りましょう、最後に影を付けましょう!って感じで、優しく教えてくれるんす! ピカチュウもゼニガメも、ミュウツーだって描けるようになるっすよ!」

ガッツマンは興奮しながら身振り手振りで説明する。ミカは言われるがままにタッチペンを動かし、ぎこちない手つきでピカチュウの輪郭を描いていく。最初は戸惑っていた彼女の表情が、少しずつ真剣なものに変わっていった。

ピカチュウの耳、頬、しっぽ…。指示通りに線を描き、色を塗っていくと、モニターの中に可愛らしいピカチュウが少しずつ形になっていく。今まで自分が描いてきた絵とは違い、まるで魔法のように完成していくイラストに、ミカの瞳が輝きを増した。たった数分間のお試しプレイだったが、彼女の心には、今まで感じたことのない感動興奮が湧き上がっていた。

ゲームを終え、ミカはタッチペンを置いた。その顔には、これまでの陰りはなく、希望に満ちた真剣な眼差しが宿っている。ただ、またすぐに暗くなってしまった。

「私、3DSの本体、持ってないんです…」

その言葉に、隣で聞いていたミドリが、ハッと顔を上げた。

「ミカちゃん! 私の3DS、貸してあげるよ!」

ミドリは、店の奥にある自分のロッカーから、大切にしている3DS本体を取り出してきた。オーロラで働き始めてから、ミドリはすっかりレトロゲームの魅力にハマり、色々なゲーム機を集めるようになっていたのだ。

「私、最近は他のゲームに夢中だから、しばらく使ってないんだ。ガッツマンさんが言ってた通り、このゲーム、本当に面白いから、ミカちゃんもきっと気に入るよ! それに…ミカちゃんが、少しでも元気になってくれたら嬉しいな」

ミドリは、優しく微笑みながらミカに3DSを差し出した。

ガッツマンはミドリの行動に目を潤ませ、大きく頷いた。

「あの…ガッツマンさん!」

ミカは意を決したように、小さなリュックからお財布を取り出した。中には、お小遣いを貯めたらしき小銭がぎっしり詰まっている。

「私…これ、買います! 自分のお小遣いで!」

ミカは少し震える手で、お財布の中身を数え始めた。ガッツマンは、彼女の真剣な眼差しに、静かに頷く。おやっさんも、カウンターの奥からその様子を温かく見守っていた。ミカの小さな手が、少しずつお金をカウンターに広げていく。

「これで…足りるかな…?」

数え終わったミカが不安そうにガッツマンを見上げた。ガッツマンは、にっこり笑って言った。

「バッチリっす、ミカちゃん! 」

 

第三章:光を灯すイラスト

その日以来、ミカは毎日、塾に行く前に「オーロラ」に立ち寄るようになった。ミドリから借りた3DSで、学校での様子をガッツマンに報告し、一日30分だけ「ポケモンアートアカデミー」に没頭する。最初は戸惑っていたタッチペンさばきも、日を追うごとにスムーズになり、彼女の描くポケモンたちは、生命を宿したかのように生き生きとしていった。

「ガッツマンさん! 今日はゼニガメ、こんなに上手に描けたよ!」

ミカは、誇らしげに3DSの画面をガッツマンに見せた。ガッツマンは、彼女の成長ぶりに目を細める。

「おお、ミカちゃん! 素晴らしいっすね! それこそが真の才能っす! クラスの人気者になる日も近いっすよ!」

数週間後、ミカの表情は以前とは見違えるほど明るくなっていた。彼女は、休み時間になると、クラスメイトに自分の描いたポケモンのイラストを見せるようになったのだ。最初は遠巻きに見ていたクラスメイトも、彼女の描く魅力的なポケモンに目を奪われ、「すごい! これ、どうやって描いたの!?」と声をかけるようになった。ミカの周りには、少しずつ笑顔の輪が広がっていったのだ。

ある日の夜、ミカは意を決して、自分が描いたポケモンのイラストを両親に見せた。

「お父さん、お母さん、見て! 私、こんな絵が描けるようになったの!」

絵にあまり関心がなかったはずの父親が、一枚のイラストを見て「おや…これは…ピカチュウか!」と驚きの声を上げた。母親もまた、「懐かしいわね…」と目を細める。

「私、昔、よくポケモン描いてたんだよね。このピカチュウ、私の描いてた絵にそっくりよ」と母親。

「俺も、昔は毎日ゲームボーイでポケモンやってたなぁ…」と父親も遠い目をしたのだ。

ミカは、初めて知る両親の意外な一面に、目を輝かせた。今まで、塾や勉強の話ばかりだった家庭の食卓に、ポケモンという共通の話題が生まれたのだ。両親の顔には、久しぶりに心からの笑顔が浮かんでいた。

 

第四章:新たな冒険の始まり

翌日、ミカは満面の笑顔で「オーロラ」にやってきた。しかし、その日は一人ではなかった。両親が、ミカに促されるようにして店の入り口をくぐったのだ。

「ガッツマンさん! 私、クラスに友達ができたよ! お父さんとお母さんも、昔ポケモンのファンだったんだって! ポケモンの話で、家族みんなで盛り上がったんだ!」

ミカは嬉しそうに報告した。その横で、父親は店の奥に陳列されたレトロゲームの棚に目を奪われていた。

「おや、こんなところにゲームボーイのソフトが…おや、これは! ポケモン赤・緑じゃないか! まだあるのか、こんな懐かしいものが!」

母親も負けじと、別の棚を指さした。

「あら、こっちにはポケモンスタジアムもあるわ! 私、NINTENDO64でこれ、よくやってたのよ!」

両親は、まるで宝物を見つけた子供のように目を輝かせ、それぞれの思い出のポケモンゲームを手に取った。ガッツマンは、そんな光景に目を潤ませながら、これ以上ないほどの満面の笑みを浮かべた。

「よかったっすね、ミカちゃん! それこそが真の勝利っす! いや、これは新聞の一面を飾るレベルのハッピーエンドっす!」

両親は、次々と懐かしいポケモンゲームをカゴに入れていく。ガッツマンは、両親それぞれの世代のポケモンゲームをテキパキと探し出し、その魅力を熱弁した。家族がゲームショップで笑顔になる光景は、ガッツマンにとって何よりの「最高の体験」だった。

おやっさんも、温かい眼差しでミカと両親を見守っていた。ゲームは、ただの遊び道具ではない。人々の心に光を灯し、絆を深めることもできる。そして、世代を超えて、懐かしい思い出を呼び起こす力がある。改めて、このゲームショップ「オーロラ」という場所の価値を実感しているようだった。

「あのね、ガッツマンさん…ミドリさん…!」 ミカは、両手を胸に当て、潤んだ瞳で二人を見上げた。 「私、本当に、お二人のおかげで変われたんだ! 学校が楽しくなったのも、家族と仲良くなれたのも、ガッツマンさんが『ポケモンアートアカデミー』を勧めてくれて…ミドリさんが3DSを貸してくれたから…本当に、本当にありがとう!」 彼女のまっすぐな感謝の言葉に、ガッツマンは「ミカちゃん…!」と声を詰まらせ、ミドリも瞳を潤ませながら、優しくミカの頭を撫でた。

ゲームショップ「オーロラ」は、今日もまた、誰かの笑顔のために開かれている。そして、ガッツマンの「最高の体験」は、これからも続いていく。この街のどこかで、また新たな「迷える子羊」が、この心のオアシスに辿り着く日を夢見て。

 

 

ガッツマンの日常 第四話:お盆のゲーム供養

 

第一章:特別なスペース

夏の盛り、お盆が近づく商店街は、どこか懐かしい提灯の明かりが灯り始めていた。ゲームショップ「オーロラ」の店内では、夢追勝男、通称ガッツマンが、いつになく真剣な表情で店の片隅に広めのスペースを作り始めていた。彼は古い棚を丁寧に運び出し、積もった埃を払い、新品の白い布を敷き詰めている。汗だくになりながらも、その顔には達成感が浮かんでいた。

「ガッツマンさん、何してるんですか?こんなに広いスペース、何か新しいゲームでも入荷するんですか?」

アルバイトのミドリが首を傾げながら尋ねた。彼女の問いに、ガッツマンは少しだけ寂しげに、しかし優しい笑顔で答えた。

「ああ、ミドリちゃん。これはね、亡くなった常連さんのための、特別なスペースなんすよ」

ガッツマンが語り始めたのは、数年前に亡くなった一人の常連客の話だった。その人は、商店街で小さな駄菓子屋を営んでいた「タケさん」というおじさんだった。タケさんは根っからのレトロゲーム好きで、特にRPGには目がなく、新しいゲームが出れば必ず「オーロラ」に顔を出し、ガッツマンとおやっさんと熱く語り合っていたという。彼の知識はまるで生きるゲーム攻略本のようで、ガッツマンの突飛な発想にもいつも真剣に耳を傾けてくれた。

「あの人は、よく言ってたんすよ。『ゲームは人生の縮図だ』って。新しいRPGが出るたびに、目をキラキラさせて。『今度の冒険は、どんな感動が待ってるかなあ』ってね」

ガッツマンはそう言って、遠い目をした。タケさんが亡くなった後も、お盆の時期になると、ガッツマンはいつも彼のことを思い出していたのだ。そして、ふと思った。タケさんはきっと、今頃、あの世で「新しいゲームは出ないのか?」と退屈しているかもしれない、と。

 

第二章:リメイク作品に込めた思い

そこでガッツマンは思いついた。お盆の期間だけ、タケさんが大好きだったレトロRPGのリメイク作品だけを集めた特別なコーナーを店内に作ることを。

「今年もまた、あの人が遊びに来てくれたら嬉しいなって。きっと、最新のグラフィックで生まれ変わったRPGを、目をキラキラさせて見てくれると思うんすよ!」

ガッツマンはそう言って、選りすぐりのゲームソフトを丁寧に並べ始めた。『ライブアライブ』『タクティクスオウガ リボーン』『ロマンシング サガ2 リベンジオブザセブン』――かつての傑作RPGが現代の技術で蘇ったタイトルばかりだ。それぞれのパッケージを手に取るたび、ガッツマンの脳裏には在りし日のタケさんの笑顔が浮かび、熱いものがこみ上げてくる。

「タケさんは、『タクティクスオウガ』が特に好きだったんすよ。どの選択肢を選んでも、必ず誰かが悲しむ。それでも信じた道を進むしかないって、よく語ってくれましたね」

ガッツマンは思い出を語りながら、ディスプレイにそのパッケージを立てかけた。そして、ふと別のパッケージを手に取り、独りごとのように呟いた。

「それにしても、『ウィザードリィ』がリメイクされるとは思いませんでしたね。あの迷宮、きっとタケさんなら、今もどんな仕掛けがあるか、すぐにピンと来るでしょうね」

ガッツマンは棚に並べた『ウィザードリィ』のリメイク版を見つめ、感慨深げに続けた。

「タケさんも、いつか『ウィザードリィ』を最新機種で遊びたいって、よく言ってましたからね。グラフィックが綺麗になって、操作性も良くなって、きっと驚くと思うんすよ。遂に夢が叶いましたね、タケさん!」

 

第三章:繋がる思いと受け継がれる情熱

ミドリは、ガッツマンの語るタケさんとの思い出話に、静かに耳を傾けていた。彼女自身も、かつてゲームに救われた経験があるからこそ、ガッツマンの気持ちが痛いほどよく分かった。

「タケさん、きっと喜んでくれますね。私、何か手伝うことありますか?」

ミドリがそう言うと、ガッツマンはパッと顔を輝かせた。

「おお、ミドリちゃん! 助かるっす! じゃあ、この辺の棚、もっと綺麗に拭いてくれるっすか? タケさんは綺麗好きだったから、ピカピカにして迎えたいんすよ!」

ミドリは頷き、雑巾を手に、ガッツマンが作ったスペースの周りの棚を丁寧に拭き始めた。彼女の心の中には、タケさんの顔は知らないけれど、ガッツマンの温かい思いが伝わってきて、胸がじんわりと温かくなった。

カウンターの奥では、おやっさんが静かにその様子を見守っていた。

「そういえば、この店のレトロゲームコーナー、結構な数がタケさんのコレクションだもんな」

おやっさんがしみじみと呟いた。

「そうなんすよ! タケさん、本当にすごい人だったんす! 亡くなる前も、入院されてたのに、わざわざこの店まで足を運んでくれて。『俺のゲーム、お前んとこで引き取ってくれないか』って。『おかげで、子供の大学費用が賄えたよ』って、笑顔で言ってくれたんすからね。ゲームが、誰かの人生を、こんな風に支えることもあるんすからね!」

ガッツマンは、誇らしげに胸を張った。タケさんのゲームへの情熱が、形を変えて今も生きている。そして、この「オーロラ」という場所で、新たな物語を紡いでいるのだ。

おやっさんの目にも、ガッツマンと同じように、在りし日のタケさんの姿が浮かんでいるようだった。

「ガッツマン、タケさんも喜ぶだろうよ。お前らしい、最高の供養だな」

おやっさんの言葉に、ガッツマンは照れくさそうに笑った。

 

第四章:来年への誓い

お盆の期間中、「オーロラ」のその一角は、故人への思いと、ゲームへの愛情が詰まった、優しい光を放つ場所となった。そして、ガッツマンは毎日、その特別なスペースを眺め、タケさんが嬉しそうにゲームを選んでいる姿を想像していた。

しかし、店の片付けを始めたガッツマンは、そのスペースの棚を見て目を丸くした。並べてあったリメイク作品が、一つ残らず全て売れてしまっていたのだ。ゲームを愛するタケさんの思いが、他のゲーマーにも届いたかのように。

「ええっ!?全部売れてるっすか!?タケさん、ごめんなさいっす!今年はあまりにも人気すぎて、ゆっくり選ぶ間もなかったんじゃないっすかね!」

ガッツマンは思わず天を仰ぎ、声を張り上げた。

「でも、これはタケさんも喜んでくれてるってことっすよね!あの人なら、『いいから、もっと多くの人にゲームの素晴らしさを届けろ!』って言うに違いないっす!」

そして、決意に満ちた顔で、空に向かって誓った。

「タケさん!来年もきっと、色々なRPGがリメイクされるはずっすからね!もっと沢山のリメイク作品を集めて!最高の体験、約束するっすよ!」

ゲームショップ「オーロラ」は、今日もまた、故人への思いと、ゲームへの愛情に溢れた場所だった。そして、ガッツマンの「最高の体験」は、これからも続いていく。

 

 

ガッツマンの日常 第五話:ミドリと攻略本の迷宮

 

第一章:攻略本の迷宮

夏の終わり、夜風が少し涼しさを運び始めた頃。ゲームショップ「オーロラ」では、ミドリが店の片隅にある「攻略本コーナー」の前で立ち尽くしていた。そこには、ガッツマンが長年かけて集めてきたらしい、分厚い攻略本が所狭しと並べられている。RPGの年表が載った大判の雑誌から、手のひらサイズの小さな薄い本まで、色も形も様々だ。ミドリは、その圧倒的な情報量と、どこか歴史を感じさせる本の山に目を丸くした。

「ガッツマンさん、これ全部、攻略本なんですか!?すごい量ですね…私、今までこんなにちゃんと見たことなかったです!」

彼女の声に、レジで商品の補充をしていたガッツマンが顔を上げた。

「おお、ミドリちゃん!気づいたっすか!これこそが、僕がこの店に立ち始めてから、血と汗と根性で集めに集めまくった、攻略本の聖域っす!どうっすか、この圧倒的な情報量!」

ガッツマンは、誇らしげに胸を張る。ミドリは、興味津々で一冊の攻略本を手に取った。それは、昔のRPGの攻略本で、色褪せた表紙にはドット絵のキャラクターが描かれている。ページをめくると、手書きのような地図や、緻密なデータがびっしりと書き込まれていた。

 

第二章:攻略本の真価

「でも、今の時代って、インターネットを開けば、どんなゲームの情報でもすぐに見つかりますよね?YouTubeで攻略動画だって見れますし。こうやって、わざわざ本で読むって、どんな良さがあるんですかね?」

ミドリの素朴な疑問に、ガッツマンは大きく頷いた。

「いい質問っす、ミドリちゃん!確かに、今の時代はネットで何でも調べられる。でも、攻略本には、ネットにはない最高の価値があるんすよ!」

ガッツマンは、熱く語り始めた。

「まず、昔のゲーム、特にファミコンなんかは、攻略本がないと本当に先に進めないゲームも多かったんす!隠し通路とか、特定のアイテムがないと倒せないボスとか、普通にプレイしてたら絶対に気づかないような仕掛けが山ほどあったんすよ!だから、ゲームを買ったら、攻略本もセットで買うのが当たり前だったんす!まるで、ゲームをクリアするための地図みたいなもんっすね!」

彼はそう言って、一冊の攻略本をミドリに差し出した。そこには、手書き風のダンジョンマップが何ページにもわたって描かれており、宝箱の位置や敵の出現パターンが細かく記されている。

「それにね、攻略本には、ゲームの中だけでは見られない貴重な情報が詰まってるんすよ!ゲームの製作者さんのインタビューが載ってたり、ゲームには登場しないキャラクターの初期デザインのイラストが載ってたり!製作者さんがどんな気持ちでそのゲームを作ったのか、どんな裏設定があるのか…そういうのを読むと、ゲームへの愛が深まること間違いなしっす!」

ガッツマンは目を輝かせながら、別の攻略本を開いて見せた。そこには、ゲームでは見ることのできない、美しいコンセプトアートや、キャラクターたちの詳細な設定画が掲載されていた。

 

第三章:ゲーム体験の相棒

「それにね、インターネットの情報って、どうしても断片的になりがちっすけど、攻略本は一冊にすべてがまとまってるんす。ページをめくるごとに、新しい発見があったり、物語の奥深さを知れたりするんす。ゲームをプレイしながら、隣に攻略本を置いて、ちょっとずつ情報を確認しながら進める。これこそが、最高のゲーム体験なんすよ!」

ガッツマンは、腕を組み、遠い目をした。彼の言葉からは、攻略本が単なる情報源ではなく、ゲームの世界をより深く楽しむための「相棒」のような存在であったことが伝わってくる。

「今の時代、攻略本は確かに昔ほど必須じゃなくなったかもしれないっす。でも、昔はゲームと同じくらい、いや、もしかしたらそれ以上に価値があったんすよ。ゲームをクリアした後の達成感も、攻略本を隅々まで読み込んだ時の満足感も、全部ひっくるめて、僕たちの青春の証だったんす!」

ガッツマンの熱弁を聞きながら、ミドリは改めて攻略本コーナーを見渡した。一つ一つの本が、それぞれ異なる物語と、誰かの熱い思い出を秘めているように見えた。

 

第四章:新たなコレクションへの一歩

「なるほど…奥が深いですね、攻略本の世界…。最近は昔のゲームをたくさん遊ぶようになりましたけど、攻略本ってほとんど読んだことがなくて…。これからは、もっと攻略本にも目を向けてみようかな」

ミドリはそう呟き、改めて手にした『ウィザードリィ』の攻略本をじっと見つめた。彼女がかつて迷宮を攻略する際に、この攻略本があったらどんなに心強かっただろうか。

「よし、私も…ウィザードリィの攻略本、少しずつ集めてみようかな…!」

ミドリの目に、新たな光が宿った。その言葉を聞いたガッツマンは、待ってましたとばかりに目を輝かせ、棚の奥から一冊の分厚い本を引っ張り出してきた。

「ミドリちゃん!それなら、まずはこれっす!『ウィザードリィのすべて』っす!」

ガッツマンが差し出したのは、年季の入った、しかし大切に扱われてきたことがわかる一冊だった。

「これはね、まさに『ウィザードリィ』の全てが詰まってる攻略本っす!迷宮のマップはもちろん、モンスターのデータ、アイテムのリスト、そして奥深すぎる裏設定まで!これさえあれば、どんな迷宮も怖くないっす!」

ガッツマンは興奮気味にページをめくり、ミドリに中身を見せた。そこには、彼女が知るゲーム内の世界が、より詳細に、より深く描かれていた。イラストの隅々まで見入ってしまうような、緻密な世界観の解説。彼女が何度も苦戦したであろう迷宮の、隠されたルートが鮮やかに示されている。

「それに、これは昔、僕が初めて『ウィザードリィ』をクリアした時に、本当に頼りになった一冊なんすよ!これを読めば、ミドリちゃんの『ウィザードリィ』の冒険が、もっともっと深く、そして最高の体験になること間違いなしっす!」

ガッツマンの言葉に、ミドリはゆっくりと頷き、その本を両手で受け取った。手のひらに伝わる紙の質感、微かに香るインクの匂い。デジタルデータでは決して感じることのできない、本ならではの温かさがあった。

「ありがとうございます、ガッツマンさん!私、この本を読んで、もっと『ウィザードリィ』のことに詳しくなります!」

ミドリの笑顔は、以前にも増して輝いていた。ゲームショップ「オーロラ」の攻略本コーナーは、今日もまた、誰かの知的好奇心と探求心を刺激する、静かな迷宮として存在している。そして、ガッツマンの「最高の体験」は、これからもずっと続いていくのだ。

 

 

ガッツマンの日常 第六話:ゲーム観を変えてくれた偉大な師匠

 

第一章:静かなる宝庫

ゲームショップ「オーロラ」の店内には、レトロゲームの懐かしいメロディーが静かに流れていた。アルバイトのミドリは、いつものように店内を見回した。ふと、店の奥、少し薄暗い一角に設けられたゲーム雑誌コーナーに目が留まる。そこには、社長である白髪交じりの「おやっさん」ではなく、店員の夢追勝男、通称ガッツマンが長年かけて集めてきたという、年代も機種も様々なゲーム雑誌が、まるで積み上げられた知識のレンガのように並んでいた。ファミコン、メガドライブ、プレイステーション、セガサターン…それぞれの時代を彩ったゲームたちの情報が、色褪せた紙の中に閉じ込められている。ミドリは、普段はあまり気に留めることのなかったそのコーナーの、静かで独特な雰囲気に、今日はなぜか引き込まれた。

「ガッツマンさんの趣味のコーナー、って感じですよね…」

ミドリは小さく呟いた。インターネットでゲーム情報を得るのが当たり前の彼女にとって、紙媒体のゲーム雑誌は、どこか博物館の展示物のような、珍しい存在に感じられた。今まで、ガッツマンが熱心に何かを探している様子は見ていたものの、これほどの数の雑誌が集まっているとは知らなかった。一冊手に取ってみると、表紙には見慣れないゲームのタイトルと、熱気あふれるイラストが描かれている。ずっしりとした重みと、インクの匂いが、デジタルデータとは違う、独特の感触を伝えてきた。

レジの整理を終えたガッツマンが、ミドリの視線に気づき、にこやかに声をかけた。

「おや、ミドリちゃん。どうしたっすか、そんなところで?」

「あ、ガッツマンさん。このゲーム雑誌のコーナー、すごい数ですね!こんなにたくさんの雑誌が集まっているなんて、知りませんでした」

ミドリの素直な驚きに、ガッツマンは目を輝かせた。

「そうでしょ!これらは、僕のゲーム人生の歩みそのものなんすよ!一冊一冊に、当時の熱い思い出が詰まってるんす!」

ガッツマンはそう言って、誇らしげに胸を張った。ミドリは、彼のその言葉を聞きながら、改めて雑誌の山を見渡した。自分にとってはまだ見慣れない世界だが、ガッツマンにとっては、かけがえのない宝物なのだろう。

「僕が小っちゃい頃は、毎月お小遣いを握りしめて、新しいゲーム雑誌が出るのを心待ちにしてたんすよ!ファミ通とかマル勝スーパーファミコンは、もちろん毎号チェックしてましたけど、当時、友達が持っていたメガドライブFANとか電撃PCエンジンをちょっとだけ見せてもらった時のドキドキ感は、今でも忘れられないっすね!自分の知らないゲームの世界が、そこには広がっていたんすから!」

ガッツマンの語る言葉は、興奮と懐かしさに満ちていた。ミドリは、彼の話を聞きながら、自分が普段何気なく触れているゲームの歴史の深さを、改めて感じ始めた。

 

第二章:幻の雑誌、ユーズドゲームズ

「でもね、ミドリちゃん。この雑誌の山の中で、僕がどうしてもコンプリートしたい幻の雑誌があるんすよ!」

ガッツマンはそう言って、少しだけ真剣な表情になった。ミドリはゴクリと唾を飲み込んだ。

「幻の雑誌、ですか?」

「そうっす!その一つが、『ユーズドゲームズ』っていう雑誌なんす!」

ガッツマンの目が、遠い昔を懐かしむように細められた。

「『ユーズドゲームズ』はですね、中古ゲームだけを取り扱った、かなり異色のゲーム雑誌だったんすよ!当時としては、本当に画期的な雑誌だったっすね。新品のゲーム情報が主流の時代に、あえて中古に特化するなんて、尖りまくりっすよ!」

ガッツマンは、手元にあった『ユーズドゲームズ』のバックナンバーを誇らしげにミドリに見せた。そこには、価格相場や、掘り出し物の見つけ方、果てはゲームソフトのクリーニング方法まで載っていた。

「この雑誌を読んで、どれだけたくさんの名作に出会えたか!あの頃は、お小遣いを握りしめて中古ゲームショップを巡るのが、まるで宝探しみたいだったんす!この雑誌には、単なる攻略情報だけじゃなくて、中古市場の動向とか、今では手に入りにくいレアなゲームの情報が満載だったんす!僕のゲーム選びの先生みたいなもんだったっすね!」

ガッツマンは、目を輝かせながら当時の熱狂を語った。彼の言葉からは、単なる中古品としてのゲームではなく、一つ一つのゲームに込められた物語や、それを手に入れるまでの冒険が感じられた。

「この雑誌たちは、実は売り物じゃないんすよ。お客さんに、いつでも自由に読んでもらえるように置いてあるんす。ここに座って雑誌をパラパラめくってたら、『お、こんなゲームあったんだ!』とか、『このゲーム、面白そうだな、買ってみようかな!』って思ってもらえるように。知らないレトロゲームとの、最高の出会いの場になれば嬉しいっすね!」

ミドリは、ガッツマンのその言葉に深く頷いた。自分もかつて、この店でウィザードリィというゲームに出会い、人生が変わった。このコーナーも、きっと誰かにとってそんな存在になり得るのだろうと、改めて店が持つ温かさを感じた。

 

第三章:硬派な審判者、ゲーム批評

「そして、もう一つ!これもまた、僕の魂を揺さぶった伝説の雑誌があるんす!それが、『ゲーム批評』っす!」

ガッツマンは声を一段と大きくした。

「『ゲーム批評』はですね、まさにゲーム業界の硬派な審判者だったんす!当時のゲーム雑誌っていうのは、メーカーからの広告がほとんどで、どうしても良いことばかり書かれがちだったんすけど、『ゲーム批評』は一切の広告を載せない、ガチンコのレビューにこだわったんすよ!」

ガッツマンは腕を組み、力説した。

「しかも、ゲームメーカーからゲームを貰ってプレイするんじゃなくて、執筆者さんたちが自分自身でゲームを購入して、ちゃんと長時間プレイして真剣なレビューを書いてたんす!今の時代、ネットのレビューもたくさんあるけど、この雑誌のレビューは一味違ったんす!忖度なしの、ガチンコレビュー!本当にゲームを愛してるからこそ書ける、魂のこもった言葉の数々!あれを読んだら、ゲームの見方が変わるんす!」

ガッツマンは熱弁を振るいながら、当時のことを思い出しているようだった。ゲームへの広告が当たり前だった時代に、その姿勢を貫いたことの意義深さ、そして執筆者たちが、読者と同じ目線でゲームを深く掘り下げていたことへの敬意が、彼の言葉の端々から伝わってくる。

「だから、この雑誌は今もなお、熱狂的なファンが多いんすよ!あの雑誌を読むたびに、もっとゲームを深く理解しようって、ゲームに対する愛情が深まったんす!」

 

第四章:受け継がれる情熱

「なるほど…ゲーム雑誌ってすごいですね…」

ミドリは、ガッツマンの熱い語りに、ただただ感心するばかりだった。今まで知らなかったゲーム雑誌の世界、そしてガッツマンの秘めたる情熱に触れ、彼女もまた新たな発見をしていた。

「この二つの雑誌は、僕にとって単なる資料じゃないんす。ゲームに対する、いや、生き方に対する情熱を教えてくれた、僕の師匠みたいな存在なんすよ!ゲームは、ただ遊ぶだけじゃなくて、こんなにも深く、そして真剣に向き合えるものなんだって、教えてくれたんす」

ガッツマンはそう言って、古雑誌の山を優しく撫でた。

「だから、いつかこの二つの雑誌を全部集めて、ここに完璧な形で並べるのが、僕の密かな夢なんす!何年かけてでも、絶対に集めてみせるっす!」

ガッツマンの言葉には、強い決意と、どこか子供のような純粋な憧れが入り混じっていた。ミドリは、そんなガッツマンの夢を、温かい眼差しで見つめた。

「あの、ガッツマンさん!私、ガッツマンさんのその夢、ちょっとだけ手伝わせてもらってもいいですか?」

ミドリの瞳は、今までにないほどの輝きを放っていた。それは、かつて彼女がゲームの迷宮を攻略する中で見出した、探求心と新しい自分への期待に満ちた光だ。

ガッツマンは満面の笑みで応え、二人の間に確かな絆が生まれた瞬間だった。

「じゃあ、私、ゲーム雑誌の買い取りのポップ、書きますね!もっとたくさんの人に、このお店に雑誌を売りに来てもらえるように、ガッツマンさんの情熱が伝わるような、最高のポップを!」

ミドリはそう宣言すると、早速ペンと紙を取り出し、目を輝かせながら何かを書き始めた。ゲームショップ「オーロラ」のゲーム雑誌コーナーは、今日もまた、誰かの知的好奇心と探求心を刺激する、静かな案内所として存在している。そして、ガッツマンの「最高の体験」は、これからもずっと続いていくのだ。ミドリもまた、この場所で新たな「最高の体験」を、ガッツマンと共に見つけていくのだろう。彼らの探求は始まったばかりだ!

 

 

 

ガッツマンの日常 第七話:最高のホラーゲームって何だろう?

 

第一章:夏のオーロラとホラーゲームの誘い

夏の盛り、お盆に向かっていく八月のはじめ。ゲームショップ「オーロラ」の店内は、じめっとした暑さを吹き飛ばすかのように、どこか涼しげな空気が漂っていた。夢追勝男、通称ガッツマンは、店の片隅に設けた特設コーナーで、いつになく真剣な表情でゲームソフトを並べていた。そこは、期間限定のホラーゲーム専用の特設コーナーだ。

「ガッツマン、今年もいいホラーゲームを発見できたか?」

白髪交じりの「おやっさん」が、カウンターの奥から顔を出し、にこやかに問いかけた。

「勿論っす、おやっさん!このガッツマン、今年も最高の“体験”を皆さんに提供するため、日夜研究を重ねてきたっす!」

ガッツマンは、自信満々に胸を張った。

隣で棚の整理をしていたアルバイトのミドリが、少し困ったような顔で言った。

「私はあんまりホラーゲームを遊ばないんですけど、なんでこんなにたくさんあるんですか?見るだけでなんだか怖くなっちゃう……」

ガッツマンはミドリの言葉に、大きく首を振った。

「そりゃあ勿体ないっすよ、ミドリちゃん!ホラーゲームには、ただの恐怖だけじゃない、色々な魅力が詰まってるんすから!」

ガッツマンの熱意に、ミドリは目を丸くした。ここから、彼のホラーゲームに対する熱弁が始まった。

 

第二章:身近な恐怖と本能の叫び

まずガッツマンが向かったのは、特設コーナーの中でもひときわ目を引く「18歳以下におすすめ!学校が舞台のホラーゲーム」と書かれた棚だ。ミドリは首を傾げた。

「18歳以上推奨は聞いたことがありますけど、18歳以下におすすめなんですか?」

「そうなんす、ミドリちゃん!このコーナーのホラーゲームは、全て学校が舞台のホラーゲームなんす!」

ガッツマンはそう言って、手際よくソフトを並べていく。『トイレの花子さん』、『トワイライトシンドローム』、『学校であった怖い話』、『学校の怪談』……シンプルなパッケージが描かれたゲームが並んでいく。

「考えても見てください!僕たちが毎日生活している環境で起こるホラーゲームほど怖い作品もないっすからね!身近な場所が恐怖の舞台になるからこそ、ゾクゾク感が半端ないんす!だからこそ、あえて18歳以下として設置してみたっす!」

ガッツマンの言葉に、ミドリはふと自分の小学生時代を思い出した。

「確かに私も、学校の七不思議とか、友達と熱中しましたからね……」

「そうなんすよ!学生時代に遊ぶからこそ、その恐怖と興奮が一生の思い出になると思うんす!『トワイライトシンドローム』の、深夜の学校探索とか、『学校であった怖い話』の、語り手の選択肢で変化するマルチエンディングとか、どれも最高なんす!」

ガッツマンは、止まらない熱弁でミドリの興味を惹きつけていく。

次にガッツマンが向かったのは、先ほどの棚とは対照的に、不気味な気配を放つ「怪物に追いかけられるホラーゲーム」の棚だ。

「ここは追いかけられる作品の棚ですか?」

ミドリが少し身構えるように尋ねると、ガッツマンは不敵な笑みを浮かべた。

「そうっす!ここは人間の本能を思い出させてくる、究極のホラーゲームの棚っす!」

彼は『バイオハザード』『デビルマン』、『クロックタワー』、『ダークテイルズ』といったタイトルを並べ始めた。

「デビルマンの漫画にも書いていたんすけど、人間というのは闇を恐れる存在なんす。そしてなぜ闇を恐れるかというと、化物に襲われる危険が高かったからなんす!だからこそ、化物に追いかけまわされる恐怖というのは、いつまで経っても克服できない、根源的な恐怖なんすよ!そして、そんな恐怖に特化しているのが、このコーナーという訳っす!ただ追いかけられているだけなのに、心臓が死ぬほど痛くなるっすからね!これは万人に突き刺さる、メインのコーナーになると思うっす!」

ガッツマンの言葉は、まるで彼の熱い根性論のようだ。ミドリは、その言葉に説得力があるような、ないような、複雑な顔でゲームを眺めた。

 

第三章:物語が織りなす恐怖とガッツマン厳選の最恐作品

続いてガッツマンが案内したのは、他の棚とは少し雰囲気の違う、静かで落ち着いた「じっくり遊べるホラーゲーム」の棚だ。

「ここはサウンドノベルが多いですね」

ミドリが気づいたように言うと、ガッツマンは頷いた。

「そうっすね、ここはじっくり文章を読みながら遊んで欲しいタイプの棚っす」

ガッツマンは、『かまいたちの夜』、『弟切草』、『夜光虫』、『魔女たちの眠り』、さらに『月面のアヌビス』や『ざくろの味』といった、様々な物語が詰まったパッケージを並べていく。

「これらのゲームのいい所は、特殊な環境を味わえるというのが最高っス!雪山のペンション、不気味な洋館、船の上、田舎の村、宇宙、地下に落ちてしまったビルの中なんて感じで、逃げられない環境の中で、どうやって生き残っていくのか?というのが最高の恐怖を演出してくれますからね!じっくりと物語の世界に浸りたい人には、最高のコーナーっす!」

ガッツマンは、それぞれのゲームが持つ独特の世界観を熱く語った。ミドリは、小説を読むような感覚で楽しめるゲームがこんなにもあることに、少し驚いた様子だった。

そして最後に、ガッツマンはコーナーの最も奥まった場所に、まるで聖域のように設けられた棚へとミドリを導いた。そこには、わずかな数のパッケージが並べられている。

「このコーナーはなんですか?」

ミドリが尋ねると、ガッツマンは神妙な面持ちで答えた。

「ここは、僕が遊んで来た中で、最も好きな、そして最も怖いホラーゲームの棚っす!」

彼は、ドリームキャストの『es(エス)』、ワンダースワンの『テラーズ』、そしてプレイステーションの『黒ノ十三』を並べた。

「このゲームのことを思い出すだけで、未だに鳥肌が立つレベルっすからね!普通のホラーゲームでは満足できない人のための、最高のいや、最恐の棚にしてみたっす!」

ガッツマンの真剣な表情に、ミドリは思わずゴクリと唾を飲み込んだ。

「そんなに怖いんですか?」

「もう最高っすよ!どれもこれもが伝説っすからね!」

ガッツマンは興奮を抑えきれない様子で説明を始めた。

「『es』は、意識不明の主人公に乗り移って過去に起きた事件を追体験していくサイコホラーで、その意識の奥底に潜む闇が、もう鳥肌ものっす!そして『テラーズ』は、なんと恐怖が貯まると、プレイヤーの意思を無視して、選択肢を拒否してくるんすよ!?サウンドノベルなのに自分の意思が通用しない、まさに絶望的な恐怖を味わえるっす!最後に『黒ノ十三』は、サウンドノベル史上最も嫌な物語を楽しめるっす!この三つは、ホラーゲームの常識を打ち破った、まさに鬼才の作品っす!」

ガッツマンは、自身の体験を語るかのように、熱を帯びてそれぞれの作品の恐ろしさを説明した。ミドリは、彼の話を聞いているだけで、背筋がゾッとするような感覚に襲われた。

 

第四章:恐怖の先にある魅力、そしてガッツマンの無限の情熱

ようやく全てのゲームを並び終え、ガッツマンは満足げにコーナー全体を見渡した。

「ホラーゲームと聞くだけで、拒否反応が出る人も多いと思うんすけど、恐怖だけではない、色々な魅力が詰まっていますからね。この魅力が沢山の人に伝わればいいなと思うっす!」

ガッツマンの熱弁を聞き終え、ミドリは少し考え込んだ。

「なるほど…。ガッツマンさんの話を聞いてたら、ちょっとだけ興味が湧いてきました。じゃあ、私にはどんなホラーゲームがお勧めですか?」

ミドリの質問に、ガッツマンの目がキラリと輝いた。

「ミドリちゃんにお勧めのゲームですか!?よし、それならまずは……!」

ガッツマンは、まるで宝物を選ぶかのように真剣な表情で、再び棚のゲームを見つめ始めた。

「そうっすね……『トワイライトシンドローム』もいいっすね、ミドリちゃんが学校の七不思議に夢中になったように、きっとリアルな恐怖を味わえるはずっす!」

彼は次に「学校であった怖い話」のパッケージを手に取り、目を輝かせた。

「いや、待てよ!『学校であった怖い話』もお勧めっす!語り手の個性と選択肢で、同じ学校の怪談でも全く違う顔を見せるんす!ミドリちゃんは小説も好きだから、その物語の奥深さにきっとハマるっす!」

ガッツマンはさらに思考を巡らせる。そして、ふと「最恐の棚」に目を向けた。

「そして……いや、これはまだ早いかな……でも、ミドリちゃんなら、きっとこのゲームの真髄を理解できるはずっす!」

ガッツマンは、覚悟を決めたように、あえて『黒ノ十三』のパッケージを手に取った。

「ミドリちゃんにこそ、『黒ノ十三』の最悪のシナリオも体験して欲しいっす!ただ怖いだけじゃない、人間の心の奥底に潜む嫌な部分をこれでもかってくらい見せつけられるんす!でも、それを乗り越えた時、きっと新しい“何か”が見えてくるはずっす!」

ガッツマンの言葉は、単なるゲームの紹介ではなく、彼がホラーゲームを通して得てきた「最高の体験」を、ミドリにも伝えたいという、純粋な願いに満ちていた。今年の夏、「オーロラ」のホラーゲームコーナーは、ガッツマンの熱い魂によって、多くの人々に新たな恐怖と感動を届けることだろう。そしてミドリは、その中で自分にとっての「最高のホラーゲーム」を見つけることができるのだろうか。

 

 

 

ガッツマンの日常 番外編:ミドリちゃんの日常

 

第一章:夜の至福とウィザードリィ外伝

「早く寝なさい」

母親の声が、ミドリの部屋に響く。

「はーい!」

ミドリは元気よく返事をした。部屋の電気を消し、ベッドに横たわる。今日も一日、楽しかった。

ゲームショップ「オーロラ」に迷い込み、ガッツマンとおやっさん、そしてウィザードリィというゲームに出会ってから、ミドリの日常は大きく変わった。かつては学校に馴染めず、虚ろな目をしていた彼女の顔には、今ではいつも明るい笑顔が浮かんでいる。

ウィザードリィに救われたミドリは、ガッツマンに相談しながら、次々とシリーズ作に手を出すようになっていた。

「ウィザードリィの1、2、3を遊んだら、やっぱり次はゲームボーイのウィザードリィ外伝がお勧めっすね! 今でも遊び続けている人がいるくらいのとんでもない名作っすよ!」

ガッツマンの熱い勧めに従い、ミドリは最近、寝る前に1時間だけウィザードリィ外伝を遊ぶのが至福の時間となっていた。暗闇の中で光るゲームボーイの画面が、彼女だけの小さな冒険の世界を映し出す。今日もまた、新たなフロアを踏破し、珍しいアイテムを手に入れた。充実感に包まれ、ミドリは静かに目を閉じた。

 

第二章:変化する日常

休み時間、ミドリは友達のモモと他愛もない会話をしていた。モモは、クラスに馴染めずにいたミドリに初めて話しかけてくれた、明るく元気な女の子だ。

「あー、また今月もお小遣いが足りない〜!」

モモが頭を抱えながら嘆く。

「モモも、バイトしてみたら?」

ミドリが言うと、モモは「うーん、でもバイトする時間あったら遊びたいしな〜」と笑った。

そんな会話をしていると、突然クラスの隅から「いっ…痛い!」という声が聞こえた。誰かが指をカッターで切ってしまったようだ。周りのクラスメイトが「大丈夫!?」「どうしよう!?」と声を上げる中、ミドリはすかさず自分のポーチから絆創膏を取り出し、その子の元へ駆け寄った。

「大丈夫?、これ、貼って。」

ミドリの落ち着いた対応に、クラスメイトは驚いた顔で「ありがとう!」とお礼を言った。

その翌日。体育の授業後、誰かが「うぅ…お腹が痛い…」と座り込んでしまった。ミドリは迷わずポーチから胃薬を取り出し、差し出した。

「これ、飲んでみて。少しは楽になるかも」

またしても「ありがとう!」という感謝の言葉が返ってきた。

さらに数日後。「あー、頭痛い…」と訴えるクラスメイトに、ミドリは頭痛薬を差し出した。

「これ、めちゃくちゃ効くよ!」

その様子を見ていたモモが、しみじみと呟いた。

「ミドリ、本当に変わったね」

絆創膏、薬、そして飲み物やちょっとしたお菓子。ミドリはいつの間にか、困っているクラスメイトに、さっと手を差し伸べるようになっていた。

「もう、ミドリってばお母さんじゃん!」

モモが楽しそうに笑う。その言葉に、ミドリも嬉しそうに微笑んだ。そんな小さな出来事の繰り返しによって、ミドリは少しずつ、クラスメイトたちと自然に馴染んでいった。放課後、友達と談笑しながら帰る日々が、当たり前になっていた。

 

第三章:ゲームがくれた「準備」の力と新たな世界

「なんで、こんなに変われたんだろう?」

自宅のベッドで、ミドリはふと天井を見上げた。クラスに馴染めなかった頃の自分が、まるで遠い昔のことのように感じられる。その答えは、彼女が寝る前に遊んでいるウィザードリィの中にあった。

ウィザードリィでは、迷宮の奥に進む前に、徹底した事前準備が必要不可欠だ。毒の罠にかかったら即座に毒を回復する薬を、石化の攻撃をくらったら石化を回復する薬を、体力が減ったら回復薬を……。どんな状況にも対応できるよう、常にパーティーの持ち物を確認し、必要なアイテムを準備しておく必要がある。そんな繰り返しの経験が、無意識のうちに日常生活にも役立っていることに、ミドリは今、感動していた。

困っている人がいたら、すぐに対応できる。それは、ウィザードリィで培った「もしも」に備える習慣だったのだ。

さらに、オーロラでのアルバイトも、彼女の成長を後押ししていた。少ないお小遣いの中で、友達にお菓子や薬をあげるのは大変だが、アルバイトで金銭的に余裕が増えたことで、よりためらわずに優しさを差し伸べられるようになっていた。

その他にも、おやっさんやガッツマン、そして個性豊かな常連さんたちとの何気ない会話も、ミドリの人生観を広げてくれていた。「色々な考え方があるんだな」と、視野が広がり、人との接し方もより柔軟になっていたのだ。

あの時、勇気を出してゲームショップ「オーロラ」のドアを開けたこと。ガッツマンさんが勧めてくれたウィザードリィを手に取ったこと。そして、このお店でアルバイトを始めたこと。その全てが、今の自分を作り上げている。ミドリは心からそう思った。

 

第四章:モモの訪問とゲームショップの魅力

「ちょっとミドリ、聞いてるの!?」

スマートフォンから、モモの弾んだ声が聞こえてきた。どうやら、ミドリが考え事をしている間に、電話の向こうでモモが話し続けていたらしい。ミドリは慌てて「ごめんごめん、ちょっと考え事してた!」と笑いながら、電話の向こうの友達の顔を思い浮かべた。

「ねぇ、ミドリ!今度さ、ミドリがバイトしてるゲーム屋さん、行ってみてもいい?」

モモの突然の申し出に、ミドリは驚いた。モモはゲームにはあまり興味がないはずだった。

「え、モモが?どうしたの急に?」

「だってさ、ミドリ、最近すっごく楽しそうなんだもん!なんか、ミドリがバイトしてるお店って、すごく面白いところなのかなって思ってさ!それに、ミドリがそんなに変われた理由も、ちょっと知りたくなっちゃった!」

モモの言葉に、ミドリの胸が温かくなった。自分の変化が、友達にも伝わっていることが嬉しかった。

「うん!もちろん!いつでも大歓迎だよ!ガッツマンさんもおやっさんも、きっと喜ぶと思う!」

週末。モモは約束通り、「オーロラ」にやってきた。店内に入ると、所狭しと並べられたゲームソフトや、壁一面に貼られたポスターに目を輝かせた。

「うわー!なんか、すごいお店だね!見たことないゲームがいっぱい!」

ガッツマンは、モモがミドリの友達だと知ると、いつものように熱弁を振るい始めた。

「ようこそ!オーロラへ!ミドリちゃんの友達さんっすね!何か気になるゲームはあるっすか?どんなジャンルでも、このガッツマンが最高のゲームをチョイスしてみせるっす!」

モモは圧倒されながらも、ガッツマンの熱意に引き込まれていく。おやっさんは、そんな二人を温かく見守っていた。

「いつもこんな感じなの?」

モモがこっそりミドリに尋ねると、ミドリは苦笑しながら頷いた。

「うん、いつもこんな感じ。でもね、ガッツマンさんの話、聞いてると面白いんだよ」

モモは、ガッツマンが熱く語るゲームの話に耳を傾けたり、棚に並んだ見たことのないパッケージを眺めたりした。そして、ふと、あるゲームのパッケージに目が留まった。それは、ミドリが最近夢中になっている『ウィザードリィ外伝』だった。

「これ、ミドリがやってるゲーム?」

モモが尋ねると、ミドリは嬉しそうに頷いた。

「そうだよ!すごく面白いんだ!ダンジョンを探検して、強いモンスターを倒して、レアなアイテムを集めるの!」

「ふーん……なんか難しそうだけど、ミドリがそんなにハマるなんて、どんなゲームなんだろう?」

モモは興味津々といった様子で、パッケージを手に取った。ガッツマンは、その様子を見て、ニヤリと笑った。

「おや、ミドリちゃん、友達にもウィザードリィの魅力を伝えるんすか!いいっすね!ウィザードリィは奥が深いっすからね!最初は戸惑うかもしれないっすけど、やり込み要素が半端ないんすよ!」

モモは、ミドリとガッツマンの話を聞きながら、少しずつゲームの世界に引き込まれていくのを感じた。

「ねぇ、ミドリ。私にも、なんかおすすめのゲーム、あるかな?」

モモの言葉に、ミドリは満面の笑みを浮かべた。

「もちろん!モモにぴったりのゲーム、一緒に探そうよ!」

ミドリの日常は、ゲームと、そして温かい人々の支えによって、これからも輝き続けるだろう。そして、その輪は、少しずつ広がっていく。