レトロゲームとマンガとももクロと

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レトロゲームを題材に短編小説を書いてみた ガッツマンの日常 第三話:ガッツマンと迷子のピカチュウ

ガッツマンの日常 第三話:ガッツマンと迷子のピカチュウ

 

ガッツマンの日常:第一話 ゲームショップ「オーロラ」 - 

ガッツマンの日常:第二話 愛のキューピッド大作戦! -

 

第一章:塾帰りの少女

ゲームショップ「オーロラ」のいつもの午後。ガッツマンは新入荷のレトロゲームを棚に並べながら、「うーん、このグラフィックの荒さがまた、たまらないっすね!」と独り興奮していた。ミドリもすっかり店の仕事に慣れ、常連客との会話も弾んでいる。

その日も、夕方になりかけた頃、店のドアベルがチリンと鳴った。入ってきたのは、まだあどけない顔立ちの小学五年生くらいの女の子だ。真新しい制服のようにぴしっとした服装は、この古びた商店街では少し浮いて見える。彼女の視線は、店内のゲームソフトのパッケージをチラリと見ただけで、すぐにカウンターの奥へと向かった。

「あの…」

蚊の鳴くような声で、彼女は尋ねた。

「…塾って、どこですか…?」

ガッツマンは目を丸くした。オーロラはゲームショップであって、塾ではない。おやっさんは苦笑しながら、優しく答える。

「おや、いらっしゃい。塾は、この道をまっすぐ行った交差点の角だね」

少女は「あ、ありがとうございます…」と俯き、そそくさと店を出ていった。その背中には、どこか寂しさが漂っているように見えた。

数日後、再び同じ少女が「オーロラ」に顔を出す。やはり店に足を踏み入れることなく、ちらりと店内を覗き込み、すぐにまた「塾に行かなきゃ」と呟いて去っていく。その様子を、ガッツマンとミドリは心配そうに見守っていた。

「あの子、なんだか元気がないっすね。いつも塾に急いでるみたいだけど、楽しそうじゃないっす」

ガッツマンの言葉に、ミドリも眉を下げて頷いた。

「うん…なんだか、見てて胸が苦しくなるよ。私にも、あんな頃があったから…」

ミドリは、かつて自分がクラスに馴染めず、一人で過ごしていた頃を思い出していた。

「そうだな。この商店街には最近引っ越してきた家庭が多いから、馴染むのに苦労してるのかもしれないな」

おやっさんの言葉に、ガッツマンは腕を組み、真剣な顔で考え込んだ。「友達と馴染めない…」その言葉が、かつてのミドリの姿と重なった。

 

第二章:ピカチュウとの出会い

その週末、ついに少女は店の中へと足を踏み入れた。彼女の目は、やはりどこか虚ろだ。ガッツマンは、チャンスとばかりに駆け寄る。

「お嬢さん! いらっしゃいっす! 今日は何かお探しっすか?」

少女は驚いたように顔を上げた。

「あ、あの…いえ、別に…」

言葉を濁す少女に、ガッツマンはたたみかける。

「もしかして、学校で困ってることとかないっすか? 僕、ガッツマンって言います! 何かあったら、僕の発想力と根性で、どんな問題も解決してみせますから!」

少女は、ガッツマンの勢いに少し戸惑いつつも、観念したように小さな声で話し始めた。

「私…ミカっていいます…最近この街に引っ越してきて…クラスに、うまく馴染めなくて…」

ミカは言葉を選びながら、クラスで話す友達がいないこと、休み時間が苦痛なこと、そして親が「いい学校に入ってほしいから」と塾に通わせていることなどをぽつりぽつりと話す。特に、絵を描くのが好きだという話をするとき、彼女の目がほんの一瞬だけ輝いたように見えた。

ガッツマンは、その話を聞いてピンと来た。

「よし、分かりましたっす!」

ガッツマンは突然立ち上がり、ミドリが目を丸くする中、店の奥へと走り出した。すぐに戻ってきた彼の両手には、『ポケモンアートアカデミー』のパッケージが抱えられていた。

「ミカちゃん! これで、ミカちゃんの問題、きっと解決します!」

ガッツマンは自信満々に、パッケージをミカの前に置いた。

「これはですね、ミカちゃんの人生を変えるゲームになるかもしれない、ぶっちぎりでナンバーワンのゲームっす! まずはちょっと、お試しで遊んでみてくださいっす!」

ミカは「ポケモン…?」と呟きながら、パッケージに描かれたピカチュウのイラストをじっと見つめた。ガッツマンは店の試遊機である3DS本体にカセットを差し込み、電源を入れた。映し出されたカラフルな画面に、ミカの目が釘付けになる。

「これはですね、お絵かきソフトなんす! 遊べば遊ぶほど、イラストが上手くなる最高の教材っすから! まずは輪郭を描きましょう、次に色を塗りましょう、最後に影を付けましょう!って感じで、優しく教えてくれるんす! ピカチュウもゼニガメも、ミュウツーだって描けるようになるっすよ!」

ガッツマンは興奮しながら身振り手振りで説明する。ミカは言われるがままにタッチペンを動かし、ぎこちない手つきでピカチュウの輪郭を描いていく。最初は戸惑っていた彼女の表情が、少しずつ真剣なものに変わっていった。

ピカチュウの耳、頬、しっぽ…。指示通りに線を描き、色を塗っていくと、モニターの中に可愛らしいピカチュウが少しずつ形になっていく。今まで自分が描いてきた絵とは違い、まるで魔法のように完成していくイラストに、ミカの瞳が輝きを増した。たった数分間のお試しプレイだったが、彼女の心には、今まで感じたことのない感動興奮が湧き上がっていた。

ゲームを終え、ミカはタッチペンを置いた。その顔には、これまでの陰りはなく、希望に満ちた真剣な眼差しが宿っている。ただ、またすぐに暗くなってしまった。

「私、3DSの本体、持ってないんです…」

その言葉に、隣で聞いていたミドリが、ハッと顔を上げた。

「ミカちゃん! 私の3DS、貸してあげるよ!」

ミドリは、店の奥にある自分のロッカーから、大切にしている3DS本体を取り出してきた。オーロラで働き始めてから、ミドリはすっかりレトロゲームの魅力にハマり、色々なゲーム機を集めるようになっていたのだ。

「私、最近は他のゲームに夢中だから、しばらく使ってないんだ。ガッツマンさんが言ってた通り、このゲーム、本当に面白いから、ミカちゃんもきっと気に入るよ! それに…ミカちゃんが、少しでも元気になってくれたら嬉しいな」

ミドリは、優しく微笑みながらミカに3DSを差し出した。

ガッツマンはミドリの行動に目を潤ませ、大きく頷いた。

「あの…ガッツマンさん!」

ミカは意を決したように、小さなリュックからお財布を取り出した。中には、お小遣いを貯めたらしき小銭がぎっしり詰まっている。

「私…これ、買います! 自分のお小遣いで!」

ミカは少し震える手で、お財布の中身を数え始めた。ガッツマンは、彼女の真剣な眼差しに、静かに頷く。おやっさんも、カウンターの奥からその様子を温かく見守っていた。ミカの小さな手が、少しずつお金をカウンターに広げていく。

「これで…足りるかな…?」

数え終わったミカが不安そうにガッツマンを見上げた。ガッツマンは、にっこり笑って言った。

「バッチリっす、ミカちゃん! 」

 

第三章:光を灯すイラスト

その日以来、ミカは毎日、塾に行く前に「オーロラ」に立ち寄るようになった。ミドリから借りた3DSで、学校での様子をガッツマンに報告し、一日30分だけ「ポケモンアートアカデミー」に没頭する。最初は戸惑っていたタッチペンさばきも、日を追うごとにスムーズになり、彼女の描くポケモンたちは、生命を宿したかのように生き生きとしていった。

「ガッツマンさん! 今日はゼニガメ、こんなに上手に描けたよ!」

ミカは、誇らしげに3DSの画面をガッツマンに見せた。ガッツマンは、彼女の成長ぶりに目を細める。

「おお、ミカちゃん! 素晴らしいっすね! それこそが真の才能っす! クラスの人気者になる日も近いっすよ!」

数週間後、ミカの表情は以前とは見違えるほど明るくなっていた。彼女は、休み時間になると、クラスメイトに自分の描いたポケモンのイラストを見せるようになったのだ。最初は遠巻きに見ていたクラスメイトも、彼女の描く魅力的なポケモンに目を奪われ、「すごい! これ、どうやって描いたの!?」と声をかけるようになった。ミカの周りには、少しずつ笑顔の輪が広がっていったのだ。

ある日の夜、ミカは意を決して、自分が描いたポケモンのイラストを両親に見せた。

「お父さん、お母さん、見て! 私、こんな絵が描けるようになったの!」

絵にあまり関心がなかったはずの父親が、一枚のイラストを見て「おや…これは…ピカチュウか!」と驚きの声を上げた。母親もまた、「懐かしいわね…」と目を細める。

「私、昔、よくポケモン描いてたんだよね。このピカチュウ、私の描いてた絵にそっくりよ」と母親。

「俺も、昔は毎日ゲームボーイでポケモンやってたなぁ…」と父親も遠い目をしたのだ。

ミカは、初めて知る両親の意外な一面に、目を輝かせた。今まで、塾や勉強の話ばかりだった家庭の食卓に、ポケモンという共通の話題が生まれたのだ。両親の顔には、久しぶりに心からの笑顔が浮かんでいた。

 

第四章:新たな冒険の始まり

翌日、ミカは満面の笑顔で「オーロラ」にやってきた。しかし、その日は一人ではなかった。両親が、ミカに促されるようにして店の入り口をくぐったのだ。

「ガッツマンさん! 私、クラスに友達ができたよ! お父さんとお母さんも、昔ポケモンのファンだったんだって! ポケモンの話で、家族みんなで盛り上がったんだ!」

ミカは嬉しそうに報告した。その横で、父親は店の奥に陳列されたレトロゲームの棚に目を奪われていた。

「おや、こんなところにゲームボーイのソフトが…おや、これは! ポケモン赤・緑じゃないか! まだあるのか、こんな懐かしいものが!」

母親も負けじと、別の棚を指さした。

「あら、こっちにはポケモンスタジアムもあるわ! 私、NINTENDO64でこれ、よくやってたのよ!」

両親は、まるで宝物を見つけた子供のように目を輝かせ、それぞれの思い出のポケモンゲームを手に取った。ガッツマンは、そんな光景に目を潤ませながら、これ以上ないほどの満面の笑みを浮かべた。

「よかったっすね、ミカちゃん! それこそが真の勝利っす! いや、これは新聞の一面を飾るレベルのハッピーエンドっす!」

両親は、次々と懐かしいポケモンゲームをカゴに入れていく。ガッツマンは、両親それぞれの世代のポケモンゲームをテキパキと探し出し、その魅力を熱弁した。家族がゲームショップで笑顔になる光景は、ガッツマンにとって何よりの「最高の体験」だった。

おやっさんも、温かい眼差しでミカと両親を見守っていた。ゲームは、ただの遊び道具ではない。人々の心に光を灯し、絆を深めることもできる。そして、世代を超えて、懐かしい思い出を呼び起こす力がある。改めて、このゲームショップ「オーロラ」という場所の価値を実感しているようだった。

「あのね、ガッツマンさん…ミドリさん…!」 ミカは、両手を胸に当て、潤んだ瞳で二人を見上げた。 「私、本当に、お二人のおかげで変われたんだ! 学校が楽しくなったのも、家族と仲良くなれたのも、ガッツマンさんが『ポケモンアートアカデミー』を勧めてくれて…ミドリさんが3DSを貸してくれたから…本当に、本当にありがとう!」 彼女のまっすぐな感謝の言葉に、ガッツマンは「ミカちゃん…!」と声を詰まらせ、ミドリも瞳を潤ませながら、優しくミカの頭を撫でた。

ゲームショップ「オーロラ」は、今日もまた、誰かの笑顔のために開かれている。そして、ガッツマンの「最高の体験」は、これからも続いていく。この街のどこかで、また新たな「迷える子羊」が、この心のオアシスに辿り着く日を夢見て。

 

 

 

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