ガッツマンの日常 第七話:最高のホラーゲームって何だろう?

第一章:夏のオーロラとホラーゲームの誘い
夏の盛り、お盆に向かっていく八月のはじめ。ゲームショップ「オーロラ」の店内は、じめっとした暑さを吹き飛ばすかのように、どこか涼しげな空気が漂っていた。夢追勝男、通称ガッツマンは、店の片隅に設けた特設コーナーで、いつになく真剣な表情でゲームソフトを並べていた。そこは、期間限定のホラーゲーム専用の特設コーナーだ。
「ガッツマン、今年もいいホラーゲームを発見できたか?」
白髪交じりの「おやっさん」が、カウンターの奥から顔を出し、にこやかに問いかけた。
「勿論っす、おやっさん!このガッツマン、今年も最高の“体験”を皆さんに提供するため、日夜研究を重ねてきたっす!」
ガッツマンは、自信満々に胸を張った。
隣で棚の整理をしていたアルバイトのミドリが、少し困ったような顔で言った。
「私はあんまりホラーゲームを遊ばないんですけど、なんでこんなにたくさんあるんですか?見るだけでなんだか怖くなっちゃう……」
ガッツマンはミドリの言葉に、大きく首を振った。
「そりゃあ勿体ないっすよ、ミドリちゃん!ホラーゲームには、ただの恐怖だけじゃない、色々な魅力が詰まってるんすから!」
ガッツマンの熱意に、ミドリは目を丸くした。ここから、彼のホラーゲームに対する熱弁が始まった。
第二章:身近な恐怖と本能の叫び
まずガッツマンが向かったのは、特設コーナーの中でもひときわ目を引く「18歳以下におすすめ!学校が舞台のホラーゲーム」と書かれた棚だ。ミドリは首を傾げた。
「18歳以上推奨は聞いたことがありますけど、18歳以下におすすめなんですか?」
「そうなんす、ミドリちゃん!このコーナーのホラーゲームは、全て学校が舞台のホラーゲームなんす!」
ガッツマンはそう言って、手際よくソフトを並べていく。『トイレの花子さん』、『トワイライトシンドローム』、『学校であった怖い話』、『学校の怪談』……シンプルなパッケージが描かれたゲームが並んでいく。
「考えても見てください!僕たちが毎日生活している環境で起こるホラーゲームほど怖い作品もないっすからね!身近な場所が恐怖の舞台になるからこそ、ゾクゾク感が半端ないんす!だからこそ、あえて18歳以下として設置してみたっす!」
ガッツマンの言葉に、ミドリはふと自分の小学生時代を思い出した。
「確かに私も、学校の七不思議とか、友達と熱中しましたからね……」
「そうなんすよ!学生時代に遊ぶからこそ、その恐怖と興奮が一生の思い出になると思うんす!『トワイライトシンドローム』の、深夜の学校探索とか、『学校であった怖い話』の、語り手の選択肢で変化するマルチエンディングとか、どれも最高なんす!」
ガッツマンは、止まらない熱弁でミドリの興味を惹きつけていく。
次にガッツマンが向かったのは、先ほどの棚とは対照的に、不気味な気配を放つ「怪物に追いかけられるホラーゲーム」の棚だ。
「ここは追いかけられる作品の棚ですか?」
ミドリが少し身構えるように尋ねると、ガッツマンは不敵な笑みを浮かべた。
「そうっす!ここは人間の本能を思い出させてくる、究極のホラーゲームの棚っす!」
彼は『バイオハザード』『デビルマン』、『クロックタワー』、『ダークメサイア』といったタイトルを並べ始めた。
「デビルマンの漫画にも書いていたんすけど、人間というのは闇を恐れる存在なんす。そしてなぜ闇を恐れるかというと、化物に襲われる危険が高かったからなんす!だからこそ、化物に追いかけまわされる恐怖というのは、いつまで経っても克服できない、根源的な恐怖なんすよ!そして、そんな恐怖に特化しているのが、このコーナーという訳っす!ただ追いかけられているだけなのに、心臓が死ぬほど痛くなるっすからね!これは万人に突き刺さる、メインのコーナーになると思うっす!」
ガッツマンの言葉は、まるで彼の熱い根性論のようだ。ミドリは、その言葉に説得力があるような、ないような、複雑な顔でゲームを眺めた。
第三章:物語が織りなす恐怖とガッツマン厳選の最恐作品
続いてガッツマンが案内したのは、他の棚とは少し雰囲気の違う、静かで落ち着いた「じっくり遊べるホラーゲーム」の棚だ。
「ここはサウンドノベルが多いですね」
ミドリが気づいたように言うと、ガッツマンは頷いた。
「そうっすね、ここはじっくり文章を読みながら遊んで欲しいタイプの棚っす」
ガッツマンは、『かまいたちの夜』、『弟切草』、『夜光虫』、『魔女たちの眠り』、さらに『月面のアヌビス』や『ざくろの味』といった、様々な物語が詰まったパッケージを並べていく。
「これらのゲームのいい所は、特殊な環境を味わえるというのが最高っス!雪山のペンション、不気味な洋館、船の上、田舎の村、宇宙、地下に落ちてしまったビルの中なんて感じで、逃げられない環境の中で、どうやって生き残っていくのか?というのが最高の恐怖を演出してくれますからね!じっくりと物語の世界に浸りたい人には、最高のコーナーっす!」
ガッツマンは、それぞれのゲームが持つ独特の世界観を熱く語った。ミドリは、小説を読むような感覚で楽しめるゲームがこんなにもあることに、少し驚いた様子だった。
そして最後に、ガッツマンはコーナーの最も奥まった場所に、まるで聖域のように設けられた棚へとミドリを導いた。そこには、わずかな数のパッケージが並べられている。
「このコーナーはなんですか?」
ミドリが尋ねると、ガッツマンは神妙な面持ちで答えた。
「ここは、僕が遊んで来た中で、最も好きな、そして最も怖いホラーゲームの棚っす!」
彼は、ドリームキャストの『es(エス)』、ワンダースワンの『テラーズ』、そしてプレイステーションの『黒ノ十三』を並べた。
「このゲームのことを思い出すだけで、未だに鳥肌が立つレベルっすからね!普通のホラーゲームでは満足できない人のための、最高のいや、最恐の棚にしてみたっす!」
ガッツマンの真剣な表情に、ミドリは思わずゴクリと唾を飲み込んだ。
「そんなに怖いんですか?」
「もう最高っすよ!どれもこれもが伝説っすからね!」
ガッツマンは興奮を抑えきれない様子で説明を始めた。
「『es』は、意識不明の主人公に乗り移って過去に起きた事件を追体験していくサイコホラーで、その意識の奥底に潜む闇が、もう鳥肌ものっす!そして『テラーズ』は、なんと恐怖が貯まると、プレイヤーの意思を無視して、選択肢を拒否してくるんすよ!?サウンドノベルなのに自分の意思が通用しない、まさに絶望的な恐怖を味わえるっす!最後に『黒ノ十三』は、サウンドノベル史上最も嫌な物語を楽しめるっす!この三つは、ホラーゲームの常識を打ち破った、まさに鬼才の作品っす!」
ガッツマンは、自身の体験を語るかのように、熱を帯びてそれぞれの作品の恐ろしさを説明した。ミドリは、彼の話を聞いているだけで、背筋がゾッとするような感覚に襲われた。
第四章:恐怖の先にある魅力、そしてガッツマンの無限の情熱
ようやく全てのゲームを並び終え、ガッツマンは満足げにコーナー全体を見渡した。
「ホラーゲームと聞くだけで、拒否反応が出る人も多いと思うんすけど、恐怖だけではない、色々な魅力が詰まっていますからね。この魅力が沢山の人に伝わればいいなと思うっす!」
ガッツマンの熱弁を聞き終え、ミドリは少し考え込んだ。
「なるほど…。ガッツマンさんの話を聞いてたら、ちょっとだけ興味が湧いてきました。じゃあ、私にはどんなホラーゲームがお勧めですか?」
ミドリの質問に、ガッツマンの目がキラリと輝いた。
「ミドリちゃんにお勧めのゲームですか!?よし、それならまずは……!」
ガッツマンは、まるで宝物を選ぶかのように真剣な表情で、再び棚のゲームを見つめ始めた。
「そうっすね……『トワイライトシンドローム』もいいっすね、ミドリちゃんが学校の七不思議に夢中になったように、きっとリアルな恐怖を味わえるはずっす!」
彼は次に「学校であった怖い話」のパッケージを手に取り、目を輝かせた。
「いや、待てよ!『学校であった怖い話』もお勧めっす!語り手の個性と選択肢で、同じ学校の怪談でも全く違う顔を見せるんす!ミドリちゃんは小説も好きだから、その物語の奥深さにきっとハマるっす!」
ガッツマンはさらに思考を巡らせる。そして、ふと「最恐の棚」に目を向けた。
「そして……いや、これはまだ早いかな……でも、ミドリちゃんなら、きっとこのゲームの真髄を理解できるはずっす!」
ガッツマンは、覚悟を決めたように、あえて『黒ノ十三』のパッケージを手に取った。
「ミドリちゃんにこそ、『黒ノ十三』の最悪のシナリオも体験して欲しいっす!ただ怖いだけじゃない、人間の心の奥底に潜む嫌な部分をこれでもかってくらい見せつけられるんす!でも、それを乗り越えた時、きっと新しい“何か”が見えてくるはずっす!」
ガッツマンの言葉は、単なるゲームの紹介ではなく、彼がホラーゲームを通して得てきた「最高の体験」を、ミドリにも伝えたいという、純粋な願いに満ちていた。今年の夏、「オーロラ」のホラーゲームコーナーは、ガッツマンの熱い魂によって、多くの人々に新たな恐怖と感動を届けることだろう。そしてミドリは、その中で自分にとっての「最高のホラーゲーム」を見つけることができるのだろうか。
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