レトロゲームとマンガとももクロと

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レトロゲームを題材に短編小説を書いてみた ガッツマンの日常 第四話:お盆のゲーム供養

ガッツマンの日常 第四話:お盆のゲーム供養

 

 

 

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第一章:特別なスペース

夏の盛り、お盆が近づく商店街は、どこか懐かしい提灯の明かりが灯り始めていた。ゲームショップ「オーロラ」の店内では、夢追勝男、通称ガッツマンが、いつになく真剣な表情で店の片隅に広めのスペースを作り始めていた。彼は古い棚を丁寧に運び出し、積もった埃を払い、新品の白い布を敷き詰めている。汗だくになりながらも、その顔には達成感が浮かんでいた。

「ガッツマンさん、何してるんですか?こんなに広いスペース、何か新しいゲームでも入荷するんですか?」

アルバイトのミドリが首を傾げながら尋ねた。彼女の問いに、ガッツマンは少しだけ寂しげに、しかし優しい笑顔で答えた。

「ああ、ミドリちゃん。これはね、亡くなった常連さんのための、特別なスペースなんすよ」

ガッツマンが語り始めたのは、数年前に亡くなった一人の常連客の話だった。その人は、商店街で小さな駄菓子屋を営んでいた「タケさん」というおじさんだった。タケさんは根っからのレトロゲーム好きで、特にRPGには目がなく、新しいゲームが出れば必ず「オーロラ」に顔を出し、ガッツマンとおやっさんと熱く語り合っていたという。彼の知識はまるで生きるゲーム攻略本のようで、ガッツマンの突飛な発想にもいつも真剣に耳を傾けてくれた。

「あの人は、よく言ってたんすよ。『ゲームは人生の縮図だ』って。新しいRPGが出るたびに、目をキラキラさせて。『今度の冒険は、どんな感動が待ってるかなあ』ってね」

ガッツマンはそう言って、遠い目をした。タケさんが亡くなった後も、お盆の時期になると、ガッツマンはいつも彼のことを思い出していたのだ。そして、ふと思った。タケさんはきっと、今頃、あの世で「新しいゲームは出ないのか?」と退屈しているかもしれない、と。

 

第二章:リメイク作品に込めた思い

そこでガッツマンは思いついた。お盆の期間だけ、タケさんが大好きだったレトロRPGのリメイク作品だけを集めた特別なコーナーを店内に作ることを。

「今年もまた、あの人が遊びに来てくれたら嬉しいなって。きっと、最新のグラフィックで生まれ変わったRPGを、目をキラキラさせて見てくれると思うんすよ!」

ガッツマンはそう言って、選りすぐりのゲームソフトを丁寧に並べ始めた。『ライブアライブ』『タクティクスオウガ リボーン』『ロマンシング サガ2 リベンジオブザセブン』――かつての傑作RPGが現代の技術で蘇ったタイトルばかりだ。それぞれのパッケージを手に取るたび、ガッツマンの脳裏には在りし日のタケさんの笑顔が浮かび、熱いものがこみ上げてくる。

「タケさんは、『タクティクスオウガ』が特に好きだったんすよ。どの選択肢を選んでも、必ず誰かが悲しむ。それでも信じた道を進むしかないって、よく語ってくれましたね」

ガッツマンは思い出を語りながら、ディスプレイにそのパッケージを立てかけた。そして、ふと別のパッケージを手に取り、独りごとのように呟いた。

「それにしても、『ウィザードリィ』がリメイクされるとは思いませんでしたね。あの迷宮、きっとタケさんなら、今もどんな仕掛けがあるか、すぐにピンと来るでしょうね」

ガッツマンは棚に並べた『ウィザードリィ』のリメイク版を見つめ、感慨深げに続けた。

「タケさんも、いつか『ウィザードリィ』を最新機種で遊びたいって、よく言ってましたからね。グラフィックが綺麗になって、操作性も良くなって、きっと驚くと思うんすよ。遂に夢が叶いましたね、タケさん!」

 

第三章:繋がる思いと受け継がれる情熱

ミドリは、ガッツマンの語るタケさんとの思い出話に、静かに耳を傾けていた。彼女自身も、かつてゲームに救われた経験があるからこそ、ガッツマンの気持ちが痛いほどよく分かった。

「タケさん、きっと喜んでくれますね。私、何か手伝うことありますか?」

ミドリがそう言うと、ガッツマンはパッと顔を輝かせた。

「おお、ミドリちゃん! 助かるっす! じゃあ、この辺の棚、もっと綺麗に拭いてくれるっすか? タケさんは綺麗好きだったから、ピカピカにして迎えたいんすよ!」

ミドリは頷き、雑巾を手に、ガッツマンが作ったスペースの周りの棚を丁寧に拭き始めた。彼女の心の中には、タケさんの顔は知らないけれど、ガッツマンの温かい思いが伝わってきて、胸がじんわりと温かくなった。

カウンターの奥では、おやっさんが静かにその様子を見守っていた。

「そういえば、この店のレトロゲームコーナー、結構な数がタケさんのコレクションだもんな」

おやっさんがしみじみと呟いた。

「そうなんすよ! タケさん、本当にすごい人だったんす! 亡くなる前も、入院されてたのに、わざわざこの店まで足を運んでくれて。『俺のゲーム、お前んとこで引き取ってくれないか』って。『おかげで、子供の大学費用が賄えたよ』って、笑顔で言ってくれたんすからね。ゲームが、誰かの人生を、こんな風に支えることもあるんすからね!」

ガッツマンは、誇らしげに胸を張った。タケさんのゲームへの情熱が、形を変えて今も生きている。そして、この「オーロラ」という場所で、新たな物語を紡いでいるのだ。

おやっさんの目にも、ガッツマンと同じように、在りし日のタケさんの姿が浮かんでいるようだった。

「ガッツマン、タケさんも喜ぶだろうよ。お前らしい、最高の供養だな」

おやっさんの言葉に、ガッツマンは照れくさそうに笑った。

 

第四章:来年への誓い

お盆の期間中、「オーロラ」のその一角は、故人への思いと、ゲームへの愛情が詰まった、優しい光を放つ場所となった。そして、ガッツマンは毎日、その特別なスペースを眺め、タケさんが嬉しそうにゲームを選んでいる姿を想像していた。

しかし、店の片付けを始めたガッツマンは、そのスペースの棚を見て目を丸くした。並べてあったリメイク作品が、一つ残らず全て売れてしまっていたのだ。ゲームを愛するタケさんの思いが、他のゲーマーにも届いたかのように。

「ええっ!?全部売れてるっすか!?タケさん、ごめんなさいっす!今年はあまりにも人気すぎて、ゆっくり選ぶ間もなかったんじゃないっすかね!」

ガッツマンは思わず天を仰ぎ、声を張り上げた。

「でも、これはタケさんも喜んでくれてるってことっすよね!あの人なら、『いいから、もっと多くの人にゲームの素晴らしさを届けろ!』って言うに違いないっす!」

そして、決意に満ちた顔で、空に向かって誓った。

「タケさん!来年もきっと、色々なRPGがリメイクされるはずっすからね!もっと沢山のリメイク作品を集めて!最高の体験、約束するっすよ!」

ゲームショップ「オーロラ」は、今日もまた、故人への思いと、ゲームへの愛情に溢れた場所だった。そして、ガッツマンの「最高の体験」は、これからも続いていく。

 

 

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